経営者の決断が社運を変えた!? 宝島社の女性誌が好調
2009.01.26 09:30 written by ishihara カテゴリ:経営のヒント
「雑誌が不調」などと言われて久しいですが、週刊誌や月刊誌の休刊が相次ぐ出版不況のなか、宝島社の女性誌が絶好調で、業界内外の注目を集めているのをご存じでしょうか?
同社が発行する30代の女性をメインターゲットにした『InRed』は、昨年(2008年)11月号の実売部数が26万部を超え、過去最高部数を更新!同じく『Spring』は20代女性向けの雑誌ですが、こちらも20万部を超える勢いで、昨年の実績では、前年同月比で約3割も部数を伸ばしているようです。その他、『sweet』や『CUTiE』などの雑誌も右肩上がりだといいます。
なぜ他社の雑誌を押さえて宝島の女性誌だけが快進撃を続けているのか・・・それは同社が『一番誌戦略』を打ち出したところからすべてが始まっているのです。ご存じのとおり、雑誌が収益を上げるためには、「広告収入」なしには考えられないわけですが、ここ3年くらい、すべての雑誌の広告収入をトータルしても、ネット広告に勝てないような状況が続いています。
当然、スポンサー企業は、"宣伝効果"を期待して広告料を払うわけですから、これからの時代、スポンサー企業に広告料を払い続けてもらうには、それぞれのカテゴリーで"一番"になるしか手はないと同社は考えたのです。
『一番誌戦略』のもと、昨春から各雑誌で月1回の社内「マーケティング会議」を開くようにしたそうですが、おもしろいのが、これまでは「編集スタッフ」だけで行われていた編集会議に、社長はもちろんのこと、販売、広告、広報、宣伝といった各部門の責任者も参加するようにしたところです。それぞれの視点から「一番誌」になるには、つまり「売れる雑誌」にするにはどうすればいいかを徹底的に話し合ったのです。
人間立場が違えば考え方も変わるものですから、きっとその会議では、これまでにない斬新な意見が出たことだろうと思います。なかでも女性広報課長が「価格を下げたらどうか」と発言したときには、さすがの社長も驚きを隠せなかったようですよ(@_@;)
彼女は働きながら大学院でマーケティングを学んだそうですが、授業のなかで「価格弾力性」という理論を知り、それを自社の雑誌に適用できないかと考えたのです。「価格弾力性」とは、価格の変動によって、ある製品の需要や供給が変化する度合いを示す数値のことですが、一般に生活必需品以外は「価格弾力性」が大きいと言われています。つまり、趣味性の高い商品は、その価格を変えることによって、マーケットが劇的に変わる可能性があるということです。
この提案を聞いた社長は「これまで出版社は"価格を下げよう"などとは死んでも思わなかったものだが、彼女の言い分にも一理あり、試してみる価値はある」と判断し、先に挙げた『InRed』の価格を880円から650円に値下げしたのです。確かに売上は減りますが、もし部数を伸ばすことができれば、結果「広告収入」を稼げるようになり、全体の収益性はかえって上がるはずだ...という経営判断を下したのです。
もうひとつの大きな改革は、タイトルまわりのデザインを見直したことでした。これは販売サイドからの提案だったそうですが、「付録の写真を雑誌タイトルに重ねるデザインにして欲しい」と意見したのです。同じく、価格もタイトル下に大きく表示してはどうか、と提言したみたいです。
これまで雑誌は書店に「平積み」されるケースがほとんどだったので、読者は表紙全体を見て雑誌を選んでいたわけですが、最近ではコンビニで雑誌を買う人も増えています。ご存じのとおり、コンビニでは棚に重ねて置かれますから、一番前に置かれる雑誌以外では、読者には「タイトルまわり」しか見えないわけです。
言われれば「なるほどねぇ~」という意見ですが、小まめに現場を回っている人だからこそ気が付く点ですよね。ちなみに、このデザイン変更に、編集部のクリエーターたちはかなり抵抗したみたいですが(ーー;)・・・経営判断として、「売れる」アイディアを選択したというわけです。
同社では約2年ほど前に、広告収入がピーク時の約半分になってしまったことに危機感をいだき、これまでの経営方針を大転換して、この『一番誌戦略』を打ち出したそうですが、「この経営判断があと半年遅れていたら、今頃、当社の広告収入は大打撃を受けていたでしょう」と話しています。
このところの急激な景気悪化を考え合わせると、「本当にそうですよね!」と思わず相槌を打ちたくなるような発言です。的確な経営判断が、会社を救うという格好の事例だと思います。ぜひ、参考にしてください(@^^)/~~~