売れ続ける理由 一回のお客を一生の顧客にする非常識な経営法
2011.05.13 09:08 written by ishihara カテゴリ:おすすめ本の紹介
今月のおすすめ本としてご紹介するのは、仙台駅と山形駅からそれぞれ車で30~40分ほどの地、「秋保(あきう)温泉」にある社員15名ほどの小さなスーパー「さいち」の経営者、佐藤啓二氏の処女作です。
ところで、この本の装丁に使われている画像、なんだかわかります? 一瞬「えっ!?」という感じだと思いますが、コレ"おはぎ"なんです。同社の「秋保おはぎ」は名物商品で、人口4700人の過疎地にありながら、1日平均で5000個、土日祝日には1万個以上、お彼岸の中日には約2万個も売れるんだそうです(@_@;)
ちなみに、私が同社のことを知ったのは、この「おはぎ」の画像が"ポツン"と載った新聞広告でした。新聞紙面1ページを丸まる使い、真ん中にはこのおはぎの画像がポツン・・・その下に<原寸>と書いてあるだけの超シンプルな広告だったので、逆に目を引いたんですね。
私が目にしたのは昨年のものでしたが、この新聞広告のことは本書にも詳しく書かれています。なんでも最初は2002年の3月に、決算で利益が多く出そうだったことから期内に広告費を使おうという目的で(笑)、3月31日を指定して出した新聞広告だったようです。本当は商品名も社名も出したくなかったそうですが、それでは新聞社に問い合わせが入って迷惑がかかるということで、右下に小さく「秋保おはぎ」のロゴと店名、連絡先などを入れたのだとか。
無欲の勝利か、この広告が「仙台広告賞」の新聞部門の大賞を受賞し、「秋保おはぎ」がガゼン注目されることになったわけですが、同社はスーパーという業態でありながら、このおはぎや手づくりのお惣菜などが、売上げ構成比の約半分を占めているのだそうです。しかも、添加物を使っていないので「必ずその日に食べてください」と言って売っていて、必ずその日に売り切るのでロスはほぼゼロ。そのため「倉庫」も必要なく、結果的に本来ありえないほどのバランスで、利益率の高い商売を続けているわけです(*^^)v
しかも、量販店業界では常識となっている「チラシ」の類は一切打っていません。その"非常識"経営の秘密を探ろうと、イトーヨーカドー創業者の伊藤雅俊氏、餃子の王将の大東隆行社長など、そうそうたる有名企業から視察に訪れているのですが、すべて「無料」で視察研修を受け入れ、お惣菜のつくりかたなども、包み隠さず教えているそうです。その数は、すでに全国から600社を超えているようですが、視察に訪れた人たちもみな、このおはぎを買っていくそうですよ(笑)。
なぜ「さいち」のおはぎやお惣菜が飛ぶように売れるのか・・・驚くべきことに、同社では「レシピ」や「マニュアル」を一切つくらず、すべて「口伝」で教えているのですが、ひと言で言うとライバルを「他店」でなく『家庭の味』に据えたからでしょう。おはぎにしても、甘すぎないので次の1個に手が伸びる味になっていて、当初は「砂糖をケチってるんじゃないか」とクレームを受け、ふりかけて使うようの砂糖パックを自由に持って帰れるように売り場に置いていたほどだそうですが、今ではこの味が「さいちの味」として、広く愛されるようになったわけですね(*^_^*)
おふくろの味ならぬ「さいちの味」が、その人の"スタンダード"になれば最強です。こんなふうに、顧客の生活の中に深く入り込んだ商売は、負けようがないのです。現に、毎日通ってくるお客さんも少なくないようですよ。それもこれも、佐藤社長をはじめとしたスタッフの「正直さ」がなせる業なのですが、経営書というより「本物の商人道」に触れた思いがして、読み進むうちに"じ~ん"とさせられます。本書から、そんな熱い思いを感じてみてください(@^^)/~~~